厚生労働省から「心理的負荷による精神障害の労災認定基準の改正」が発表されました。(令和2年6月1日より適用)
その中身は、「心理的負荷評価表にパワーハラスメントの出来事を追加する」というものです。
上の心理的負荷評価表の赤く囲んだ部分が、今回追加された部分です。対人関係とは別に「パワーハラスメント」だけで独立して追加されたことがわかります。
ちなみに「セクシュアルハラスメント」も追加された当初から対人関係とは切り離して分類されていました。
この記事では、新たに「パワハラ」が追加されたことで精神障害の労災認定において「何が変わるのか?」「労災認定されやすくなるのか?」などについてお話したいと思います。
下でくわしくお話するよ!
うつ病などの労災認定の方法は?
まず、うつ病などの精神障害の労災認定方法についてかんたんに触れておきます。
うつ病などで労災申請した後、労基署では申請に基づき、どのような事実があったのか、事実関係を確認していきます。最終的に認定したその事実関係が心理的負荷評価表のどの項目や強度に当てはまるのかを検討し、労災になるかならないかを決めることになります。(ざっくりとですが…)
たとえば、上司から継続的に胸や腰などを触られ続けたという事実が確認された場合、それは上の表の⑦セクシュアルハラスメントの「強」に当てはまるので、労災認定されるということになります。(あくまでざっくりですが…)
このように、労災認定されるには心理的負荷評価表のどの項目や強度に当てはまるのかが重要なポイントになってきます。
今まで「パワハラ」という項目がなかった!?
今回、追加されるまで、心理的負荷評価表に「パワーハラスメント」という項目はありませんでした。では、今まで「パワハラ」は労災認定されなかったということでしょうか。
答えは「NO」です。
今までパワハラは「⑥対人関係」の中の「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」で評価されていました。
しかし、よく見てください。「⑥対人関係」の中に「上司とのトラブルがあった」という似たような項目がありますね。普通の人がパッと見たら、パワハラはこの項目で判断されると思うのではないでしょうか。「上司とのトラブルがあった」の基本となる強度は「中」ですから、これだけですと労災認定されないことになってしまいます。これが今まで大きな誤解を生む一つになっていました。
ちなみに、パワハラと「上司とのトラブルがあった」の大きな違いは「業務指導の範囲を逸脱しているかどうか」ということです。たとえば、プロジェクトの方針をめぐり上司と対立したり、勤務態度について正当な叱責を受けたりするのは業務指導の範囲といえますが、暴力を振るわれたり暴言を吐かれたりするのは完全に業務指導の範囲を超えていると思います。
【結論】パワハラが追加されたことで何が変わるのか
では、今回の改正でなにが変わるのでしょうか?
あくまで私見ですが、現時点ではなにも変わらないと思います。
今までパワハラは「対人関係」の中の「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」で評価されていたとお話しましたが、新しく追加された心理的負荷の強度を判断する具体例を見ても、今までの判断基準とほとんど何も変わりがないように見えるからです。
パワハラという項目が追加されたことで、評価表がよりわかりやすく明確になったということは言えると思いますが、今回の改正で決して労災認定されやすくなったということではないと思います。
ただ、ストレスまみれの昨今です。うつ病などの精神障害の労災認定条件が緩和されるとの話も出ているようですので、近い将来、もう少し労災認定されやすい制度になってくれたらいいと思います。