国が推している働き方改革の影響もあり、最近は副業や兼業をおこなう人が増えてきています。
今般の労災保険法の改正に伴い、こういった副業・兼業をおこなう人、いわゆる複数事業労働者に対する労災給付が強化されることになり、令和2年9月1日より施行されましたので、ポイントを整理していきたいと思います。
副業者(複数事業労働者)の労災給付は不利だった
今まで副業・兼業者などの複数事業労働者に対する労災給付は、不公平感がありました。
給料が少ない方の会社でけがをしてしまった!
どっちも働けないのに、片方の分しか休業補償をもらえないなんておかしくないか〜!!
うつ病で労災請求したけどダメだった…
どっちの会社もストレスだらけなのに…2つあわせて認定してよ!
たとえば、A会社で25万円、副業のB会社で5万円の給料をもらっている人が副業先のB会社でけがをして働くことができなくなったとします。この場合、休業補償などの給付は5万円が基準、つまり片方の給料をもとに計算された補償しか受けられませんでした。
けがをしたら本業だってできなくなりますよね。副業分しか補償が受けられないなら、生活が困ってしまいます。
また、脳出血やうつ病などの労災認定は「労働時間(残業時間)」が大きく関わってきます。A会社で月70時間、B会社で月30時間の残業があった場合、A会社ではどうか、B会社ではどうか、というように、それぞれの会社ごとに労災の認定要件に合うかどうかで検討されていました。A会社とB会社を足した月100時間では判断されていなかったのです。
脳出血やうつ病の労災認定ラインは、残業時間が「月100時間」とか「月80時間」なので、2つの会社の残業時間を足せば労災になる可能性があるのに、今まではこういったケースでは認められていませんでした。
このように、複数の会社で働いている人は「すべての会社の給料をもとに保険給付がおこなわれないこと」「すべての会社の労働時間やストレスを合わせて評価されないこと」が問題視されていました。働き方改革を謳い、副業・兼業を推進する国の方針と矛盾することから制度改正の検討がされてきました。
制度改正!副業・兼業者(複数事業労働者)の労災が強化
今般、このような問題がビシッ!と解消されるような制度改正がおこなわれ、2020年9月1日から施行されましたので、法改正のポイントを見ていきましょう。
すべての就業先の賃金を合計したものをもとに休業補償などを給付
複数事業労働者の人は、各就業先で支払われている賃金額を合計した金額を基準にするという考え方をもとに給付基礎日額が決定されるように改正されました。
今までは、労災が発生した会社だけの賃金をもって計算されていました。上の図のB会社でけがをした場合、今までは5万円しか基礎になりませんでしたが、改正後はAとBの合算額である30万円を基礎に給付額が決定されることになります。
けがをした会社以外の分の書類も提出が必要になるなどの事務手続きは増えますが、なにより給付額がアップしますので、複数事業労働者にとっては嬉しい改正ですね。
改正の対象となる給付は?
今回の改正で算定方法が変更されるのは、給付基礎日額を使って給付額を決定する以下の給付です。
複数の就業先の労働時間やストレスを総合的に評価して労災認定
複数事業労働者が脳出血、心筋梗塞などの脳・心臓疾患、またはうつ病などの精神疾患を発症した場合、これまではA会社の分はA会社だけで労災になるかどうかを判断する、B会社の分はB会社だけで労災になるかどうかを判断する、というように、それぞれの会社ごとに労災の認定基準に当てはまるかどうかをもって評価されてきました。
今回の改正により、どれか一方の会社の労働時間やストレスなどを評価して労災に認定されない場合、複数の就業先の負荷を総合的に評価して労災にあたるかどうかが検討されることになりました。
たとえば、AとBそれぞれを個別に見たときはどちらも過労死ラインに届いていなかったとしても、AとBを合算したら過労死ラインを超えるというような場合は、労災認定されるようになるということと思われます。