仕事中にけがをしてしまった!
通勤途中に事故にあってしまった!
職場でコロナに感染してしまった!
そんなときは「労災保険」に申請をすることになりますが、本記事では、「けが」や「コロナに感染」してから労災給付を受けるまでの労災保険の手続きの流れについて説明しています。
本来、このような災害はないに越したことはありませんので、「労災の手続きなんてしたことがない!」という人が多いと思います。実際に労災が発生してしまったときの手続きの流れをできるだけわかりやすく説明していきますので、参考にしていただけましたら幸いです。
下でくわしくお話するよ!
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労災はこれを手続きすれば大丈夫!
労災の給付の種類はいろいろありますが、一般的にひとつのけがやコロナ感染で受けられる給付の種類はそう多いわけではありません。
具体的な労災の手続きの流れの説明の前に、これだけ手続きすればひとまず大丈夫!というのをまとめましたのでご覧ください。
労災の手続きの流れ
仕事中や通勤途中にけがをしてから、実際に労災給付を受けるまでの申請方法や大まかな手続きの流れを見ていきましょう。それぞれのSTEPの詳細についても説明していきます。
- けがをした!
- 仕事中や通勤途中にけがをしてしまっても冷静に
- 緊急の場合はすぐに救急車を手配!
- 緊急じゃなくても会社に報告して早めに受診を!
- 病院に行く
- 労災の場合は保険証は使えません!
- 病院には労災であることを伝えよう
- できれば労災指定病院に受診しよう
- 書類を準備・作成し、提出する
- 少し落ち着いたら労災の書類の準備を進めよう
- 書類は請求するものごとにそれぞれ必要
- できれば会社主導で手続きを進めてもらおう
- 労基署で審査される
- 書類を提出した=労災になったではない
- 書類に不備などがあると時間がかかってしまう
- 場合によっては聴き取り調査などがある
- 労災給付を受ける
- 現物給付と現金給付(振込など)の2通りある
- 不明な点があれば労基署に詳細を確認しよう
- 決定に不服があれば審査請求・開示請求が可能
STEP 1 けがをした!
けがをしても落ち着いて行動
労働災害の場合、指を切断してしまったり、高所から転落して意識不明の状態など、重症になるケースも多いです。周囲の人もできるだけ落ち着いて冷静に判断し行動するようにしましょう。
通勤時の交通事故などの場合も、警察や保険会社への連絡、相手の確認など、落ち着いて対応するようにしましょう。
緊急の場合は救急車を
仕事中や通勤途中の事故などでけがをしてしまったり具合が悪くなったりしたときは、緊急の場合は救急車を呼ぶ、周りの人に119番してもらうなど、すぐに病院を受診しましょう。
きちんと会社に報告をする
それほど緊急ではない場合でも、直属の上司や労務担当者などにけがの発生日時や発生場所、発生状況などを報告し、早めに病院を受診するようにしましょう。会社は労働災害を把握する義務がありますし、きちんと会社に報告をすることで「そんなの聞いていなかった」などの後々の無用なトラブルを避けることにつながります。
けがの内容や程度によってはしばらく様子をみようというケースもあると思いますが、病院に行かずに自宅療養している間は「療養」とは見なされず、その間は休業補償が支給されないこともあります。勝手に自分で判断せずに早めに受診することが大事です。
会社は災害発生状況を確認会社
けがの内容や程度によっては労働基準監督署から調査が入る場合があります。休業4日以上の見込みの場合は遅滞なく「労働者死傷病報告」を提出しなければなりません。
労働災害が発生したら、現場の状況確認(写真撮影や現場保存など)、本人や目撃者などからの聴取などにより、会社は本人の状態や災害発生状況の詳細を確認しておきましょう。
STEP 2 病院に行く
労災だと保険証は使えない
病院を受診したら「労災ですか?交通事故ですか?」と聞かれることがあると思います。これは、労災や交通事故の場合は健康保険や国民健康保険などの「保険証」が使えないためです。労災なのに普段の風邪などで病院にかかるときのように保険証を使って受診してしまうと、後々、労災に切り替えるのに面倒な手続きになってしまいます。
詳細労災なのに間違って健康保険を使ってしまった!
必ず「労災」と伝えよう
労働災害で病院を受診するときは「労災」であることを受付窓口などで伝えましょう。本来、労災請求するには請求書などの書類を提出する必要がありますが、けがをして病院を受診しているのに書類の準備など間に合うはずもありません。病院に「労災」であることを伝えれば、書類は後日でかまわないと言われることがほとんどだと思います。しかし、病院によっては一時的に立替金を払わされる場合がありますので、その辺は病院の指示に従いましょう。
できれば労災指定病院に受診
労働災害の場合、できることなら労災指定病院への受診をおすすめします。なぜなら、請求書を病院に提出することで療養の給付を直接受けることができるためお金を支払うことなく受診することができ(立替金などは除きます)、かつ手続きも楽におこなうことができるからです。総合病院などの大きな病院や、整形外科などは労災指定病院になっていることが多いです。
労災指定病院以外の場合は10割負担
比較的、労災の件数が少ない診療科(眼科・皮膚科・歯科など)に受診する場合は、労災指定病院になっていないことも多いです。労災指定病院になっていない病院に受診した場合は、病院に医療費の全額(10割分)を支払った後、その費用を労災に請求することになります。最終的にプラスマイナス0にはなりますが、一度高額を負担する必要がある、手続きが少し面倒になるなどのデメリットがあります。
院外薬局や整骨院にも同様に労災指定制度がある
薬局にも労災指定薬局というものがあります。病院から薬を処方されて院外薬局にいく場合も病院と同様な手続きになります。
また、整骨院や鍼灸院にも同様な制度があります。労災指定病院や労災指定薬局とは少し違う手続き(請求する金額の受領を整骨院に委任するかたち)にはなりますが、お金の支払いなしに療養することができるという点では同じになります。
STEP 3 書類を準備・作成し、提出する
労災は請求する種類ごとに書類が必要になる
労災は請求や申請といった手続きをしなければ何も受け取ることはできません。労災の「手続き」とは、ほぼすべてが「書類を提出すること」です。少し落ち着いたら書類の準備を始めましょう。
また、一度手続きすれば必要なものがすべて給付されるというようにはなっていません。病院、薬局、休業補償、交通費など、請求する種類ごとにその都度、請求書を作成し提出する必要があります。
請求書の入手はダウンロードが早い
各請求書の入手は、厚生労働省のホームページからダウンロードするか、最寄りの労働基準監督署からもらう方法があります。ネットやプリンターなどの環境がある人は、お手軽なダウンロードする方法をおすすめします。
詳細労災保険の請求書(申請書)様式・書類はどこからもらうの?
順番に書類の作成・提出をしよう
労災の一般的なけがや病気の場合に多いのは「病院・薬局などの療養費」「休業補償」「通院の交通費」の3つです。それぞれ、書類の準備→作成→提出をしましょう。
※「休業補償」「通院の交通費」は、それぞれの支給要件に該当するときに手続きを進めましょう。
詳細休業補償ってどんなときにもらえるの?
詳細労災で通院するための交通費(移送費)は支給されますか?
書類の提出先は、「病院や薬局などに提出するもの」と「管轄の労働基準監督署に提出するもの」があります。
(1)病院・薬局などの療養費
○労災指定病院や労災指定薬局に受診した場合、
- 仕事中のけが→療養補償給付たる療養の給付請求書_業務災害用(様式第5号)
- 通勤中のけが→療養給付たる療養の給付請求書_通勤災害用(様式第16号の3)
を病院や薬局に提出します。【提出時期:受診後できるだけ早めに】
詳細労災5号様式の記入例と書き方
○労災指定病院や労災指定薬局以外に受診した場合、病院や薬局に全額(10割分)を支払ったうえで、
- 仕事中のけが→療養補償給付たる療養の費用請求書_業務災害用(様式第7号(1)または(2))
- 通勤中のけが→療養給付たる療養の費用請求書_通勤災害用(様式第16号の5(1)または(2))
を管轄の労働基準監督署に提出します。【提出時期:任意(受傷後1ヶ月くらい〜)】
詳細労災7号様式(費用請求)の記入例と書き方
(2)休業補償【提出時期:任意(受傷後1ヶ月以内くらい〜)】
休業補償を請求するときは、
- 仕事中のけが→休業補償給付支給請求書_業務災害用(様式第8号)
- 通勤中のけが→休業給付支給請求書_通勤災害用(様式第16号の6)
に病院などの証明をもらったうえで管轄の労働基準監督署に提出します。
詳細労災8号様式(休業補償)の記入例と書き方
休業補償は、実際に仕事を休んだ期間を事後請求するものです。見込みで請求することはできません。
休業期間が1ヶ月半以内くらいにおさまるのであれば、就労復帰後に休業分を請求すれば一度の手続きで済みますが、休業が長期にわたる見込みの場合は、その間収入がなくなってしまうということになりますので、1ヶ月ごとくらいに区切って請求するというのが一般的になっています。たとえば、1月分(1月1日から1月31日)を請求するときは2月になってから1月分の請求書を提出する、次の2月分を請求するときは3月になってから2月分の請求書を提出するというようになります。
(3)通院の交通費【提出時期:任意(受傷後1ヶ月以内くらい〜)】
通院の交通費を請求するときは、
- 仕事中のけが→療養補償給付たる療養の費用請求書_業務災害用(様式第7号(1))
- 通勤中のけが→療養給付たる療養の費用請求書_通勤災害用(様式第16号の5(1))
を管轄の労働基準監督署に提出します。
詳細労災7号様式(費用請求)の記入例と書き方
交通費も休業補償と同様に事後請求になりますので、休業補償と同時に手続きをすることをおすすめします。なお、請求書の他にも、内訳書や領収書などが必要になる場合があります。
会社は死傷病報告の作成も早めに【遅滞なく】会社
業務災害で休業が4日以上になる見込みの場合は、遅滞なく「労働者死傷病報告(様式23号)」を労働基準監督署に提出しなければならないことになっています。災害発生状況などの確認の他にも、診断書を取り寄せるなど本人の傷病の状態を把握し、労働者死傷病報告の作成、提出をしましょう。
詳細労働者死傷病報告(様式第23号)の記入例と書き方
労災の給付には時効がある
労災の給付は種類ごとに期限(消滅時効)が設けられていますので、早めに請求書を提出することをおすすめします。
詳細労災申請に期限(時効)ってあるの?
上記のように、労災の手続きは慣れないとなかなか大変です。請求書の他にもいろいろな添付書類や資料などが必要になる場合もあります。請求書には事業主証明なども必要になりますし、できることなら会社主導で手続きを進めてもらった方がスムーズに進行するかもしれません。
請求書の記入は本人以外でも構わないことになっていますので、会社の事務担当者や家族が記入してもいいのです。ちなみに、請求書の「請求人の氏名」欄と「事業主の氏名」欄は「記名押印」か「署名」のどちらかとなっていることが多いです。「記名押印」とは「本人か本人以外の人が名前を書いて(ゴム印可)本人の印鑑を押すこと」、「署名」とは「本人が自筆で名前を書くこと」です。
社長から労災を使うことを拒否されても、労災請求することは可能です。
詳細社長が労災を使わせてくれないときは
STEP 4 労基署で審査される
書類は労働局・労基署で審査される
提出した請求書などの書類は、管轄の労働局や労基署で審査されることになります。病院や薬局に提出した書類も最終的に管轄の労働局・労基署にまわり審査されます。
書類の提出=労災になったということではない
労災の請求書を提出した段階では、あくまで「労災に請求した」ということであって、まだ労災に認定されたというわけではありません。病院に様式5号を提出すると、とりあえずお金がかからないで治療が受けられるため、労災になったと勘違いしてしまう場合があります。労働局・労基署の審査が通って初めて労災に認定されることになることに留意してください。
書類に不備や疑義があると決定に時間がかかる
請求書などの書類を提出しても、書類に不備があった場合、電話確認をされたり請求書を戻されたりする場合があります。また、災害発生状況などに疑義があったり、うつ病などの精神障害や脳出血などの脳心臓疾患に代表される業務上疾病、コロナ感染などの場合は、労基署の調査が入りますので、電話・書類などによる通信調査や、直接の面談による聴き取り調査などがおこなわれることになります。調査期間は長い場合、決定まで数ヶ月〜数年に及ぶものもあります。
参考労災の休業補償の支給日(振込日)はいつなの?
会社にも資料の提出依頼や立入検査などが入ることがある会社
労基署の調査段階で、会社に対しても現場確認や立入検査、追加資料の提出や会社関係者の面談聴取などを求められたりする場合があります。それにより、長時間労働や賃金不払い、安衛法違反などの重大な法違反が認められた場合は、是正勧告や書類送検などがなされる場合があります。
STEP 5 労災給付を受ける
労災の認定結果は通知書がくる
労災に認定されてもされなくても通知書が送られてきます。ただし、労災指定医療機関で治療を受けたり薬をもらったりした分は、その受けた療養そのものが労災の給付(現物給付)という考え方ですので、労災に認定された場合は通知書は送られてきません。
労災になるとどんな給付が受けられる?
病院、薬局などの療養費、通院の交通費、休業補償、後遺障害、遺族補償などです。療養の給付など現物給付になるものと、休業補償のようにお金が振り込まれるものがあります。
その他にも労災保険の給付には多くの種類があります。けがや病気の内容・程度、支払賃金などによっても異なるため、なにをいくらもらえるのかはケースバイケースとしかいえません。仕事中に大けがをしてしまった場合を例に、何をいくらくらいもらえるのかをシミュレーションしてみた記事がありますので参考にしてみてください。もらえそうなものはどんどん請求してみましょう。
参考労災支給金額!全部でいくらもらえる?
もし労災にならなかったらどうなる?
最終的に労災に認定されなかった場合は、労災から療養費や休業補償や交通費などの給付は受けることができません。
しかし、一般的に労災にならなくても健康保険などの取扱いになり、傷病手当金などを請求することが可能です。
労災の決定に不服があったら…?
労基署の決定に不服があるときは、都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に対して「審査請求」をすることができます。期限は「決定を知った日(通知書受理日など)から3ヶ月以内」です。
また、労基署での調査内容を知りたい場合は、情報公開制度に基づく「開示請求」をすることができます。
参考労災がおりない3つの理由とその対策
労災の手続きの流れについて説明してきましたが、いかがでしたでしょうか。
ご不明な点があれば、労災保険のよくある疑問についてトップページにまとめていますのでご覧になってみてください。最後までお読みいただきありがとうございました。
コメント
社員が仕事中にもらい事故に遭い、軽いケガを負いました。相手に非がある場合でも、病院に様式第五号と労基署には死傷病報告と第三者行為災害を提出するのでしょうか?
>ねぎ様
コメントありがとうございます。
仕事中のもらい事故の場合、自動車事故でもありますし仕事中のけがでもありますので、自賠責保険も使えるし労災保険も使えるということになります。
この辺は下のページを参考にしていただけたら幸いです。
参考ページ
相手がある場合は複雑になりやすくケースバイケースになるため、ごく簡単な説明になることをお許しください↓↓
【様式第5号と第三者行為災害届】
労災保険に請求する場合(労災保険に請求するものが一部でもある場合も含みます)は提出が必要になると考えてください。
反対に、全ての損害を相手の保険でまかなってもらうということなら、労災保険に請求するものがありませんので提出は必要ありません。
【死傷病報告】
労災保険に請求するしないに関わらず、休業がある場合は提出が必要になります(休業1〜3日と4日以上で様式が違います)。
HANAさま
ご回答ありがとうございます。
死傷病報告は提出します。ちなみにこのような際、労基署に電話連絡するものなのでしょうか?それとも死傷病報告を送付しても大丈夫でしょうか?
>ねぎ様
大きな事故以外は電話連絡は必要ないと思います。(例えば、死亡事故、転落事故、多人数を巻き込む事故など)
死傷病報告の提出は郵送で受け付けてもらえます。