腱鞘炎・手関節炎などの上肢障害の労災認定

質問

少し前から右手首に痛みがあり、病院を受診したところ「腱鞘炎」と診断され、しばらく安静にするように指示されました。これは労災認定されるのでしょうか。

答え

労災保険では腱鞘炎などの上肢障害(腕や手を過度に使用したときに、首・肩・腕・手・指にかけて炎症を起こしたり、関節や腱に異常をきたしたりするもの)についての認定要件が定められています。

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下でくわしくお話するよ!

腱鞘炎などの上肢障害の労災認定について

腱鞘炎の労災認定

「肩が痛い」「肘が痛い」「手首の関節が痛い」などというのは、いろいろな人がごく日常的に経験することです。そしてこの症状が悪化すると、仕事に支障が出たり、ときには仕事ができない状態になってしまうこともあります。

その原因としてはいろいろ考えられると思います。五十肩などの加齢によるものであったり、本人のもともと持っている素因や体力など、その人自身に原因がある場合もありますし、家事や育児、趣味、スポーツなどに原因がある場合もあります。また、「熟年の女性に多い」などというように、なぜか特定の性別や年齢に多く発症するようなものもあります。

このように、仕事以外にも痛くなる原因はあるのです。

そんな中で、腱鞘炎などの「上肢障害」が労災と認定されるためには、仕事によって腕や肩、手などを酷使したことが主因となって発症したと認められなければなりません。

上肢障害ってなに?

上肢障害の代表的なものとしては次のようなものがあります。

  • 腱鞘炎(けんしょうえん)
  • 上腕骨外(内)上顆炎(じょうわんこつがい(ない)じょうかえん)
  • 手関節炎(しゅかんせつえん)
  • 手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)
  • 肘部管症候群(ちゅうぶかんしょうこうぐん)
  • 回外(内)筋症候群(かいがい(ない)きんしょうこうぐん)
  • 書痙(しょけい)

腱鞘炎などの上肢障害の労災認定要件とは

腱鞘炎の労災認定要件とは

腱鞘炎などの上肢障害について労災と認定されるためには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。

  1. 上肢等に負担のかかる作業を主とする業務に相当期間従事した後に発症したものであること
  2. 発症前に過重な業務に就労したこと
  3. 過重な業務への就労と発症までの経過が、医学上妥当なものと認められること

これだけですと非常にわかりづらいと思いますので、言葉の解釈について少しずつ順番に解説していきたいと思います。

“上肢等”とは

後頭部、頸部、肩甲帯、上腕、前腕、手、指のことをいいます。

“上肢等に負担のかかる作業”とは

次のいずれかにあてはまる作業をいいます。

上肢の反復動作の多い作業

パソコン入力業務、荷物の運搬や積み降ろし、調理作業、ミシン縫製など

上肢を上げた状態で行う作業

電気設備、空調設備工事などの作業、塗装・溶接作業など

頸部、肩の動きが少なく、姿勢が拘束される作業

顕微鏡やルーペを使った検査業務など

上肢等の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業

保育士、看護師、介護作業など

“相当期間”とは

1週間とか1ヶ月間とかの短期間なものではなく、原則として6ヶ月程度以上をいいます。

腱鞘炎などの短期間でも発症し得るものは、6ヶ月より短くても労災認定される場合があります。

“過重な業務”とは

上肢等に負担のかかる作業を主とする業務において、医学経験則上、上肢障害の発症の有力な原因と認められる業務量を有するものであって、原則として次の1または2に該当するものをいいます。

  1. 同一事業場における同種の労働者と比較して、おおむね10パーセント以上業務量が増加し、その状態が発症直前3ヶ月程度にわたる場合
  2. 業務量が一定せず、例えば次のどちらかに該当するような状態が発症直前3ヶ月程度継続している場合
  • 業務量が1ヵ月の平均では通常の範囲内であっても、1日の業務量が通常の業務量のおおむね20パーセント以上増加し、その状態が1ヶ月のうち10日程度認められるもの
  • 業務量が1日の平均では通常の範囲内であっても、1日の労働時間の3分の1程度にわたって業務量が通常の業務量のおおむね20パーセント以上増加し、その状態が1ヵ月のうち10日程度認められるもの

また、過重な業務に就労したかを判断するにあたり、業務量だけではなく、次の状況も考慮されることになっています。

  • 長時間作業、連続作業
  • 過度の緊張
  • 他律的かつ過度な作業ペース
  • 不適切な作業環境
  • 過大な重量負荷、力の発揮
管理人

ここまで読んでいただいて、ちょっとなんのこっちゃよくわからん!って思った方は多いのではないでしょうか。腱鞘炎などの上肢障害の労災認定の考え方についてできるだけ簡潔にまとめてみましたので、以下をご一読いただければありがたいと思います。


管理人によるまとめ

「上肢障害」はぶつけたとかひねったとかなどの事故的なものではなく、「使い過ぎ」が主な原因!

手指や腕や肩などは普段から仕事じゃなくてもよく使う部分だから、労災(仕事が主な原因)になるためにはある程度の根拠が必要となる!

たとえば、「同じ仕事をしている同僚に比べて作業量が多い」とか「繁忙期だったので通常の時期に比べて作業量が増えた」など数字で示せる根拠があればベスト!

なぜなら、「同僚と同じことをやっているのになぜあなただけ?」「いつもはなんともないのになぜ?」のように疑問が出てきてしまい、仕事が理由で発症したと言い切れなくなってしまうためなのです!

コメント

  1. ノウトミ より:

    上肢の後遺障害について質問です。宜しくお願いします。
    私は、重量物を過度に扱う作業に従事し、肩の腱断裂を発症しました。症状は肩の可動域制限1/2と指先への痺れや疼痛が残存してしまい、先日認定面談へ行ってきました。担当者から認定されるとの知らせが有りましたが、この場合は関節機能障害と痺れ等の神経症状は別々に認定されるのか、それともどちらか一方のみ認定になるのかわかる範囲でご教授お願いします。
    また、労災事故後に診断書(重量物取扱い作業禁止、安静)を会社へ提出したにもかかわらず、今までと同様の重量物取扱い作業を継続させられた事が治療回復の邪魔をしたと言う配慮義務違反に抵触しないのかもわかる範囲でご教授お願いします。更に、作業にはメチレンクロライド(ジクロロメタン)を一日中使用し就業時間の殆どを使い捨てマスク1枚で就労していました。仕事はセラミック加工の会社です。

  2. HANA HANA より:

    >ノウトミ様

    コメントありがとうございます。

    主治医の診断書等を見ていませんので、あくまでも私の想像でのお話になることを予めご理解ください。

    片方の肩の主要運動(屈曲、外転・内転)が1/2以下に制限されている場合、機能障害は10級に当てはまります。ちなみに3/4以下ですと12級になります。

    疼痛等の感覚障害についてはおそらく14級程度(または12級?)に評価されるものと想像しますが、腱板断裂からくる疼痛かと思いますので(機能障害と原因が同じ)、その場合、上位等級に含めて最終評価されるのが一般的です。

    別々に評価されるのは、可動域制限の残存原因と疼痛の残存原因が別と考えられるようなときです。この場合は2つの障害を併合して最終の等級が決定されます。

    2つ目のご質問につきましては大変申し訳ありませんが労災保険と少し離れたものになりますので、労基署の監督・安全・衛生部署に相談されることをおすすめいたします。お大事になさってください。

  3. ノウトミ より:

    分かりやすく的確なご説明有り難う御座いました。

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