うつ病の労災認定基準について(その3 決定編)

質問

うつ病を発症し労災申請しています。労災保険ではどのような考え方により認定されるのでしょうか。また、うつ病が労災と認定された場合、労災からいくらくらいの金額をもらえるのでしょうか。

答え

うつ病などの精神障害は、仕事による強いストレス(心理的負荷)が認められるかどうかが認定の重要なポイントになります。この強弱は本人の主観によるものではなく、客観的な視点から「業務(仕事)による心理的負荷が強いもの」に当てはまるかどうかが判断されることになります。
うつ病が労災認定された場合の金額は、けがをした場合と同様の金額を受給することができます。

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下でくわしくお話するよ!

うつ病などの精神障害の労災認定基準の概要や労災請求方法、調査の内容などにつきましては、以下の記事でお話してきました。

では、うつ病などの精神障害は、具体的にどのような考え方により労災認定されるのでしょうか。

うつ病などの精神障害の労災認定の考え方

うつ病の労災認定の考え方

うつ病などの精神障害の労災認定基準の根底にある考え方は、「ストレス-脆弱性理論(ぜいじゃくせいりろん)」というものです。なんとなく難しそうな雰囲気ですが、まったくそんなことはありません。

ストレス-脆弱性理論とは

「ストレス-脆弱性理論」とは、「環境由来のストレス」と「個体側の反応性、脆弱性」との関係で、精神的破綻が生じるかどうかが決まるという考え方のことです。

わかりやすくご説明すると、受けるストレスが非常に強ければストレスに強い人(脆弱性が小さい人)であっても精神障害を発病するし、反対にストレスに弱い人(脆弱性が大きい人)であれば受けるストレスが小さくても精神障害を発病し得るということです。

下の図をご覧ください。

ストレスー脆弱性理論

これは「ストレス-脆弱性理論」をモデル化したものですが、グラフのたて軸が「受けるストレスの強さ」、よこ軸が「その人の脆弱性(ストレスに強いか弱いか)」を表しており、赤いラインが「発病ライン」です。

aの人はストレスに対して強いため、かなり強いストレスを受けないと発病ラインまで達しませんが、反対にcの人はストレスに弱い人であるため、小さいストレスでも発病してしまうということがわかります。

ストレスは主観ではなく客観化して評価される

上で述べた「ストレス-脆弱性理論」について、「そんなの当たり前じゃん!」と思われたかもしれません。しかし、このことから何が見えてくるかと言いますと、一つはうつ病などの精神障害の労災認定を考えていく場合、「ストレスと脆弱性との両方を視野に入れて考える必要がある」ということです。

もう一つは、「ストレスの強度は客観的に評価される」ということです。
ある出来事によるストレスをどう受け止めるかは人それぞれによって違います。一般的にはたいした出来事ではなくそれほど強くないと思われるストレスなのに、それを過大に受け止めてうつ病を発病してしまった人がいた場合、その人の主観でストレスは強かったと評価してしまうとすべての精神障害はaのような状態で発病したことになってしまいます。

要は、どんなことをストレスと感じ、または感じないか、同じストレスでも強く感じるのか、弱く感じるのかは、人それぞれであり、受け手の問題ということです。

ですから、「ストレス-脆弱性理論」とは、ストレスを主観的に見たものを表しているわけではなく、客観的に見た上で、その客観的なストレスと個体側の反応性、脆弱性の関係を理解しようとするものなのです。

うつ病で労災認定されやすくなる方法はある?

うつ病などの精神障害の労災認定率は、近年では30%〜40%くらいの間を推移しており、決して高い数字とはいえません。

では少しでもうつ病が労災認定されやすくするためになにか方法はあるのでしょうか。

うつ病などの精神障害の労災認定基準のおさらい

うつ病などの精神障害の労災認定要件は次のとおりです。

  1. 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  2. 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  3. 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

このうち、うつ病などの精神障害の労災認定にあたり、もっとも重要なポイントになると思われるのが、上記の2.の要件です。

具体的にどのような出来事があったと認定されれば「心理的負荷が強いもの」と判断されるかについては、厚生労働省のホームページに「具体的出来事」として出来事の類型ごとにまとめられていますので、下のリンクからご覧ください。

厚生労働省「業務による強い心理的負荷が認められるかどうか」

しかし、上の方でお話したとおり、本人が仕事でとても強いストレスを受けたと感じたとしても、認定された事実が客観的にみて強いストレスと判断されなければ労災認定されないということになってしまいます。

この「客観的に」判断する方法としては、「本人だけではなく、上司、同僚などの当事者やその他の第三者的立場の人から聴き取りした内容から、どのような事実があったのかが認定」され、「その認定した事実が、強い心理的負荷に当てはまるのかどうかが検討される」ことが考えられます。

うつ病で労災認定されやすくなる方法は!?

うつ病などの精神障害で労災に認定されやすくなる決定的な方法はもちろんありません。

しかし、上記の労災認定基準などから考えて、できることはあると思います。それは…

客観的に証明できるものをできるだけ用意しておく

このことに尽きると思います。

上司や同僚などの証言をこちら側で操作することはできませんが、それに匹敵するようなものを用意することは可能です。

たとえば、労働時間を証明したいなら「出社時間・退社時間・どんな仕事をしていたのかなどを毎日記録しておく」「自分のパソコンなどの記録や会社の警備記録などを取り寄せる」「今から帰るよなどの家族へのメールやLINEなどの記録を消さないでおく」などの方法が考えられると思います。パワハラやセクハラならば「いつ・誰に・どこで・どのくらいの時間・どんなことを言われたのかまたはされたのか」など、できるだけ正確に詳細にメモをとっておきましょう。気分が落ち込んでいるときは嫌なことかもしれませんが、こういうことがあとで大事になってきます。

うつ病で労災認定されたら金額はいくらくらいもらえる?

うつ病で労災認定された場合も、通常の労災と同様の金額が給付されます。具体的には、病院代やくすり代などの治療費や、会社を休んだ期間の休業補償、通院のための交通費などが給付対象となります。

休業補償の金額については、当サイトの記事を参考にしてみてください。

管理人

まとめ

うつ病などの精神障害の労災認定にあっては、本人がどの程度強い心理的負荷を受けたと感じたかで評価されるわけではなく、出来事やストレスを客観化したうえで判断されるということです。

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